【短編】Once more
「どういうことですかっ!!」
「……何が?」
五つも上の先輩を人気のない会議室に呼び出して、叫びながら問い詰める日が来るなんて、誰が想像しただろう。
「企画書のことに決まってるじゃないですか!!」
私の先輩である“増田”さんは、悪びれる様子もなく大きく息を吐くと、目の前の椅子にドカンと腰をかけた。
そして、肩肘ついて見上げてくると、
「あー、新規イベントの?」
鼻で笑いながら言葉を吐き捨てた。
こみ上げてくる怒りを抑えようと、両手拳をギュッと握りしめ、震える唇を固く噛みしめる。
「いいじゃないか、通ったんだから。それに、あれは、あくまで俺の案だから」
「何言ってるんですか? あれは、私が」
「じゃあ言うけど、確かに君が考えたものかもしれない。だけど、それだけだ。
それに伴う予算は? 仕入れ先の当ては? それだけじゃない」
ギリギリと、今にも歯が折れそうなぐらい力が入る。
思いっきりひっぱたいてやりたい。
「もういいです。分かりました」
けど、そんなことできない。
ただ……、増田さんの言うことが正論であることに違いはなく、悔しさと惨めさが込み上げてくる。
「すみませんでした」
そんな自分を見せたくなくて、軽く頭を下げて会議室を出る。
勝ち誇ったような表情を浮かべる増田さんに背を向けて。
このイベント会社に入社して半年。
まだまだ未熟だから、先輩の意見が欲しくて、私が考えていた企画の案を見せたのに。
まさか、尊敬していた先輩が私の案を盗むなんて、思ってもみなかった……。