ESCAPE
バスは北へ
「引きこもりのアニキを殺したんだ。引きこもりったって、実家じゃないぜ。30過ぎて、親の金はべらかせて、川崎の高層マンションに一人で住んで、そんでオレに対しては、親の面倒もみないプー太郎野郎なんてエラそうなこと言ってくるしだな。んで、酔っ払ってるときにムカつくもんだから、マンションの階段から背中を突き落としたんだよ。殺そうって思ってたわきゃないぜ。だけど、救急車で運ばれた時にゃあ、もう意識はなかった」
彼は氷結果汁の500ml缶をあおると、一気にそうまくしたてた。ヒトゴロシと半径1mの距離にいるというにもかかわらず、アタシはナンだか実感が持てずに、新宿の母みたいに、「お気持ちはわかります」とでも言いたげに、けど、かける言葉も見当たらず、ただ、黙って彼のうつろな瞳を見つめていた。それは、コイツがかつての同級生とはいえ、店を訪れた頼りなき一客としてしか、アタシには映っていなかったせいだろう。

「とりあえず自首すれば?」
興味がない者に対して冷たいアタシは、彼が殺した動機がなんとなくツマラナイことだったことにイラつきすら覚え、小学生のような意見を述べた。
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