ESCAPE
「奥入瀬の 清水に 映る夏の木々」
10秒で書いた俳句は、市のコンクールか何かに選ばれ、あたしは表彰されて賞状を受け取った。今でも実家に飾っている、名誉ある品物といえば、その一枚ぐらいで、それは、チャゲアスのCDアルバム挟まれ、今ではホコリをかぶっている。

「つまんなかったよね、修学旅行」
「ええ?そうか。結構楽しかったよ」
「ほんとに?」
「うん。なんかさ、何もかもから開放されたような気になってさ、ウキウキして…」
勉強ばかりしていたメタボから聞けるとは思えない、意外な台詞だった。なにが楽しかったのかと、色々問い詰めると何のことはない。みやげ物やに、性器の形をした飴玉が売られていて、男子でなめあったり、女風呂を覗こうか、覗くまいかとドキドキして結局覗かなかったり、マクラ投げや…
「あ、あとね。好きだった子がいたんだよね。でさ、その子にラブレターを書いて渡そうかと思ってたんだけど、結局あきらめちゃった。せつねーよな」
「ちなみにだれよ?」
「うーん。まあ、いずれ言うさ。」
ドラえもんで鬱めいていた彼の顔が、突如ピンク色に紅潮した。
男というのは、昔の女に固執すると聞いたことがあるが、ほんとのようだ。店の客に、セーラー服を着せられ、「さとみ」などと得たいの知れない女の名で呼ばれたことがあるが、そうやらそいつの昔のオンナだったらしい。さんざん乳首を舐められたあげく、「今は結婚して幸せなんだろうなあ。うん、そうであってほしい」と一人芝居を演じられ、そん時のアタシは狼狽したものだったが、今となってはメタボも彼も、おままごとに憧れる男児のようでどこか憎めない。ま、絶対に好きになれないタイプだけど。
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