ESCAPE
真っ暗な、トンネルの中を潜り抜ける車内は思ったより静かで、DSで遊ぶ幼児や、ビール片手のサラリーマンがそれぞれの時間を楽しんでいる。ここが、海の底なんだと言われても実感は全く無い。
「その昔さ、金がなくなって、トンネル沿いに10何時間も歩いて北海道に帰った人がいたんだって」
「ああ、どさんこワイドでやってたね」
「ある意味、すげえよな。よっぽど帰りたかったんだろうな。」
「バカだよ」
「うん。けど、一体何を考えながら歩いていたんだろうね。こんな真っ暗な道をさ。」
その昔、悪友のミホに連れられて、地元の地下鉄のホームの端っこまで行き、次の駅まで本気で歩こうとしたことがある。結局100mほどで引き返し、事なきを得たのだが、あの時の暗がりと湿っぽい空気は今でも鮮明に覚えている。地下トンネルの壁側には、黄熱光をはなつ非常灯がくくりつけられており、それだけがアタシたちを「進んでもいいんだよ」とほのめかすように曖昧に視野を広げていた。通路沿いの舗装されていない砂利道をジャラジャラと踏み鳴らしていると、「かえっておいで」とママの声が聞こえてくるし、アタシは思わず後ろを振り返る。昼下がりのホームにほとんど人影は無く、あっても豆粒のようにしか見えない。だとすれば、この声は一体どこから、ママがアタシのノーミソにテレパシーを送っているのじゃないか。アタシは、ツカツカと歩き進むミホに向かって「戻ろうよ」と叫んでいた。
「来たくないなら、こなければいいよ」
ミホはそう言って、どんどん先を歩いていったが、アタシは猛ダッシュで引き返していた。
その時、ピチュンピチュンと、タイヤのゴムが擦り切れる音が聞こえてきた。非常灯だけだった視界の先を、一筋の黄光が照らし出す。
アタシは、ミホのことなど考えず、先へ先へともときた道を戻っていった。わずか100mほどの距離が絶望的に長く感じられていた。
「その昔さ、金がなくなって、トンネル沿いに10何時間も歩いて北海道に帰った人がいたんだって」
「ああ、どさんこワイドでやってたね」
「ある意味、すげえよな。よっぽど帰りたかったんだろうな。」
「バカだよ」
「うん。けど、一体何を考えながら歩いていたんだろうね。こんな真っ暗な道をさ。」
その昔、悪友のミホに連れられて、地元の地下鉄のホームの端っこまで行き、次の駅まで本気で歩こうとしたことがある。結局100mほどで引き返し、事なきを得たのだが、あの時の暗がりと湿っぽい空気は今でも鮮明に覚えている。地下トンネルの壁側には、黄熱光をはなつ非常灯がくくりつけられており、それだけがアタシたちを「進んでもいいんだよ」とほのめかすように曖昧に視野を広げていた。通路沿いの舗装されていない砂利道をジャラジャラと踏み鳴らしていると、「かえっておいで」とママの声が聞こえてくるし、アタシは思わず後ろを振り返る。昼下がりのホームにほとんど人影は無く、あっても豆粒のようにしか見えない。だとすれば、この声は一体どこから、ママがアタシのノーミソにテレパシーを送っているのじゃないか。アタシは、ツカツカと歩き進むミホに向かって「戻ろうよ」と叫んでいた。
「来たくないなら、こなければいいよ」
ミホはそう言って、どんどん先を歩いていったが、アタシは猛ダッシュで引き返していた。
その時、ピチュンピチュンと、タイヤのゴムが擦り切れる音が聞こえてきた。非常灯だけだった視界の先を、一筋の黄光が照らし出す。
アタシは、ミホのことなど考えず、先へ先へともときた道を戻っていった。わずか100mほどの距離が絶望的に長く感じられていた。