ESCAPE
「もしもし?イサムだけどさぁ。長期休暇とったんだって?今度指名するから、早めに戻ってきてよぉ」
「うん、わかった。」
適当に流して切ると、アタシは、その見覚えの無い番号にイサムと登録してエクソシストの着メロを設定した。金は持っている男なのだが、どうにも生理的に受け付けられない。短足のチビデブだし、全身からいやな液体が常にあふれ出している。プレイのほうも、乱暴かつ傲慢で新人の女の子はたびたび泣かされているらしい。
アタシは、携帯電話をバックにしまうと、手鏡を取り出し自分の顔を眺めて見た。さっき、車内のトイレで全部落としたから、今は透明な化粧水だけが、肌を覆っている。
あらためて、みにくいなと思う。化粧をすれば、中の上ぐらいまで這い上がれるけど、すっぴんのアタシはおかめ納豆みたいだ。


「男っていいね」
アタシが思わず漏らすと、メタボは「え?」怪訝な顔をし、「まっ」とおしぼりを差し出してきた。自分はオンナのキモチなんぞ知らんぞと言いたげに無言で、顔や首筋、背中の上のほうまでゴシゴシしている。

「おしぼりは、やっぱ布じゃなきゃだめだね」
「はいはい」

メタボに差し出されたおしぼりで、アタシは自分の顔をこれでもかと、皮膚の木っ端が飛び出すほど吹きまくっていた。冷たい水の雫が気持ちいい。メタボは、そんなアタシの傲慢な振る舞いをさして気にするわけでもなく、マイペースにに吹きまくっている。コイツには感情というものが無いのだろうか。さっき、車内のトイレから戻ったアタシはB級バラドルからおかめ納豆に豹変していたのだが、メタボは一言も言わず、黙って缶ビールをゴクリし、「おかえり」とつぶやいていた。それは、元々アタシにオンナとしての魅力がなかったせいなのだろうか。その時の彼の振る舞いがあまりにも、普通すぎアタシはなぜか自己嫌悪に陥り、そして今に到っていた。
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