donor
少女
俺、一ノ瀬 夏樹(イチノセ ナツキ)は大抵の場合、出席番号が二番になる。
この番号で特段困る事はないのだが、強いて挙げるとすれば行事や集会等、出席番号順に並ぶ際に必然的に前の方になってしまうという点だろうか。これじゃ瞑想に耽ることすらままならない。
高校二年生になった今年もそれは変わらなかった。
クラス替えが行われたので、もしかしたらと雀の涙ほどの期待をしていたのだが、生憎というか当然、分かり切った結果に終わった。
しかし、ひょんな偶然があった。
俺は去年、一組に在籍していたが、今年は二組に振り分けられている。
つまるところ、二年二組二番というゾロ目で一年を過ごせるわけだ。まぁ、だからと言ってどうということもないのだが。
クラスの席順は基本的に出席番号で決まるため、俺は不本意だが今年も窓側の前から二番目という特等席をゲットすることができた。
その席に着き、リュックサックを机にかけ、何となく後ろを振り返る。すると知った顔が見えた。
俺と同じく去年から変わらぬ番号を貫く男、卯月が、気怠そうに頬杖ついて窓から見える桜を眺めている。新学期に知り合いが近くの席にいるという安堵からテンションが上がり、声をかけた。
「よお。また同じクラスだな」
「一ノ瀬じゃん。留年回避してたとは知らなかったな」
「愛する卯月と一緒に卒業したくてね」
気色悪い、と卯月はげんなりとした様子で舌を出す。
そんな卯月を気にすることもなく質問を投げつける。
「それはそうと、赤坂は?」
「あいつは隣のクラスに振り分けられたんだって。メールきてた」
そう言いながら顔の前で、ぷらぷらと黒い携帯を振り、茶に染まった髪を搔き上げる。その綺麗な髪を見て、俺もそろそろ染め直そうかと思い、リュックサックから皮の財布を取り出す。
その俺の様子を一瞬不思議そうに卯月は見つめたが、特に口を開くこともなく目の前で揺れる己の携帯を目で追う。
俺は心の中で諭吉さんを三人まで数えたところで、ある考えがふと頭をよぎった。それとほぼ同時に口が動く。
「赤坂居ないんなら今年の'一番'は違う人ってわけだ!!やべえ俺超楽しみ。折角なら女の子だと良いのに」
「お前彼女持ちじゃなかったっけ?」
ニヤニヤしながら分かりきった質問を問いかける我が友人に、肩すくませ、財布をしまいながら答えを投げ返す。
「毎回彼女が出来る度に三日と持たず別れてるよ、この話は何度言ったら卯月くんは覚えてくれるんだろう?」
「元カノと別のクラスになって安心した?」
ストレートに返されて俺はうっと胸を押さえ、直球はキツいぜと口を膨らませ文句を垂れてみる。
卯月は先程の気怠い様子が嘘のように目を爛々と輝かせながら愉快そうに笑った。
「今回も女の子だといいな。赤坂みたいにすぐ落ちるか、それとも一ノ瀬が撃沈するか、見物だ」
「俺が落とせない女の子はいねーよ」
二人して軽口を叩きながら新しいクラスメイトが揃うのを待った。
この「一ノ瀬」という苗字、そして赤坂と別のクラスになったことにより'少女'と話すきっかけが出来るとは、この時の俺はまだ知らない。
この番号で特段困る事はないのだが、強いて挙げるとすれば行事や集会等、出席番号順に並ぶ際に必然的に前の方になってしまうという点だろうか。これじゃ瞑想に耽ることすらままならない。
高校二年生になった今年もそれは変わらなかった。
クラス替えが行われたので、もしかしたらと雀の涙ほどの期待をしていたのだが、生憎というか当然、分かり切った結果に終わった。
しかし、ひょんな偶然があった。
俺は去年、一組に在籍していたが、今年は二組に振り分けられている。
つまるところ、二年二組二番というゾロ目で一年を過ごせるわけだ。まぁ、だからと言ってどうということもないのだが。
クラスの席順は基本的に出席番号で決まるため、俺は不本意だが今年も窓側の前から二番目という特等席をゲットすることができた。
その席に着き、リュックサックを机にかけ、何となく後ろを振り返る。すると知った顔が見えた。
俺と同じく去年から変わらぬ番号を貫く男、卯月が、気怠そうに頬杖ついて窓から見える桜を眺めている。新学期に知り合いが近くの席にいるという安堵からテンションが上がり、声をかけた。
「よお。また同じクラスだな」
「一ノ瀬じゃん。留年回避してたとは知らなかったな」
「愛する卯月と一緒に卒業したくてね」
気色悪い、と卯月はげんなりとした様子で舌を出す。
そんな卯月を気にすることもなく質問を投げつける。
「それはそうと、赤坂は?」
「あいつは隣のクラスに振り分けられたんだって。メールきてた」
そう言いながら顔の前で、ぷらぷらと黒い携帯を振り、茶に染まった髪を搔き上げる。その綺麗な髪を見て、俺もそろそろ染め直そうかと思い、リュックサックから皮の財布を取り出す。
その俺の様子を一瞬不思議そうに卯月は見つめたが、特に口を開くこともなく目の前で揺れる己の携帯を目で追う。
俺は心の中で諭吉さんを三人まで数えたところで、ある考えがふと頭をよぎった。それとほぼ同時に口が動く。
「赤坂居ないんなら今年の'一番'は違う人ってわけだ!!やべえ俺超楽しみ。折角なら女の子だと良いのに」
「お前彼女持ちじゃなかったっけ?」
ニヤニヤしながら分かりきった質問を問いかける我が友人に、肩すくませ、財布をしまいながら答えを投げ返す。
「毎回彼女が出来る度に三日と持たず別れてるよ、この話は何度言ったら卯月くんは覚えてくれるんだろう?」
「元カノと別のクラスになって安心した?」
ストレートに返されて俺はうっと胸を押さえ、直球はキツいぜと口を膨らませ文句を垂れてみる。
卯月は先程の気怠い様子が嘘のように目を爛々と輝かせながら愉快そうに笑った。
「今回も女の子だといいな。赤坂みたいにすぐ落ちるか、それとも一ノ瀬が撃沈するか、見物だ」
「俺が落とせない女の子はいねーよ」
二人して軽口を叩きながら新しいクラスメイトが揃うのを待った。
この「一ノ瀬」という苗字、そして赤坂と別のクラスになったことにより'少女'と話すきっかけが出来るとは、この時の俺はまだ知らない。