ラズベリーな恋模様(A・T)
「ほら、だから止めろって言ったじゃん」
フラフラの私をベンチに座らせて、灯は水の入ったペットボトルを差し出した。
案の定、リアルに作られたお化け屋敷の中で、案の定、私は叫びまくっていた。
喉が枯れるくらいに。
「こ、怖かったー……」
「俺は冬穂が怖かった」
「ごめんなさい……」
私が頭を下げると、灯は、ははっと陽気に笑った。
「ところで、とも」
「ん?」
水を一口飲んだあと、灯の顔を見上げた。
灯もこちらを向いた。
「お化け屋敷、楽しかった?」
「うん、ものすごく」
「なら、良かった」
灯には、楽しんでほしい。
今年は。
今年のイブは、絶対に。
「なあ、冬穂」
「ん?何?」
「遊園地、ちょっと早めに出ない?」
灯からの唐突な提案に、私は首を傾げる。
「どうして?」