幕末☆妖狐戦争 ~九尾の能力がはた迷惑な件について~
 とんでもない事実が発覚した。今は文久3年らしい。

 つまり幕末の真っ只中。え、タイムスリップしてきた?

 いや、でも待て。幕末に妖怪はいない。2017年でも幕末でも妖怪はおとぎ話のはず。

 でも私は九尾の狐に会ってるし、さっきまで心の声で会話していた。いや、今でも念話で会話してるけど。

 ってことは異世界?妖怪がいる幕末を舞台にした異世界?




 あれ?よくわかんなくなってきた。




『とりあえずお主、着替えてここから出るぞ』
(だから、ちょっと無茶ぶり言わないでくださる?目が見えなくて皮膚の感覚もない人間にどうやって着替えろと?)

 無理でしょ。無理ゲーってやつだよ。

 まず服がどこにあるか見えないし、手のひらに感覚がないから服をつかんでてもわかんないし。

『妾が導いてやる。とりあえずまず立つのじゃ』

 九尾の狐に促されたので、私はとりあえず立ち上がる。

 多分立てていると思う。足の裏に床の感触がないからすっげえ怖いけど。空中に浮いてるみたいでさ。

『そこから少しだけ左を向くのじゃ。少しだけじゃぞ』

 なんの外界情報も得られない私にはこれに従う他ない。おとなしく少し左を向く。

 いやぁ、骨の感覚とかは残っててくれてありがとう。

 これで"手足を動かしている感覚すらない"ってことになったら、私この場から一歩も動けないよ。

『そのまま普通に2・3歩、歩くのじゃ』

 目が見えないし、音も聞こえないし、足の裏にもなんの感覚もないけど、多分歩けてると思う。

 その後、九尾の狐(猫)の事細かなレクチャーのおかげで、私はなんとか(多分数時間かかった)着物に着替えるのに成功した……らしい。

 いやさ、目ぇ見えないから確かめようもないんだよね。

『お主、なかなかのべっぴんさんじゃのう。着物がよく似合うのじゃ』
(お世辞はいいよ。自分の見た目が平凡なのは自他ともに認めてるもん)
『本当のことなんだがのう。まあよい。とりあえずここから出るぞ』

 しかし九尾の狐は、さっきからやたらここを出ようとしているね。

(ねえ、さっきからなんでここを離れようとしてるの?ここはあなたの社なんでしょ?)
『確かにそうじゃが、妾はこの入山の里の者が嫌いなのじゃ』
(嫌い?なんで?)

ついでにこの里って、入山の里っていうのね。

『そうか……お主は何も知らぬのか。これからしばらく行動をともにするのだから、知っておいた方が良いのう』

 急に真面目な口調になり九尾の狐は告げた。私もその先の言葉をおとなしく待った。

『しかし、その前にもう日の出じゃ。とっととここから出るぞ。手を延ばして、少し下げろ……それは下げすぎじゃ!そうそう、そこじゃそこじゃ。そのまま手を握るのじゃ。決して手を開くでないぞ。風呂敷が落ちるのでのう。そしてそれが終わったら回れ右するのじゃ』

 しかしその前に風呂敷をつかむレクチャーがあった。
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