幕末☆妖狐戦争 ~九尾の能力がはた迷惑な件について~
 九尾の狐の話を聞いて、私はここを離れる決心を新たにした。

 というか是が非でもここから逃げ去ってやる、とやる気満々です。

『お、お主……急にやる気を出しすぎじゃろう。どうした?』

 九尾の狐さんも、私の唐突すぎる変化に戸惑っているらしい。

(だって彼らは九尾の力が欲しいだけで、関係ない私を生贄にしたんだよ?これで里から犠牲者が出ないってだけの理由で。しかも死んでも大丈夫だって)
『お主…………』
(私を無理矢理生贄に押し上げ、捨て駒扱いするような奴らに力を貸すなんぞ、そんな虫のいい話があるかっての)
『………』

 私がそう言うと、九尾の狐はなぜか黙り込んでしまった。

 あれ?私なんか変なことでも言ったかな?

(おーい。黙りこくって、どうしたの?)
『…………』

 そう声をかけても、九尾の狐から念話は届かない。え?なんか怒らせた?

『お主は……その……力を使って、国を征服しようとは思わぬのか?』

 ちょっとビクビクしながら待ち続け、ようやく念話が来たと思ったら、そんな質問をしてきた。

 私の答えなんて、当に決まっている。

(やだよ、そんなめんどくさいの)

 ズバリこれだ。だって日本征服とか超めんどくさいじゃん。そんな時間と労力があったら、私は家でゴロゴロして薬作るし。

(国とか運営するの大変だし、乗っ取るのも面倒だし。私は今だけで十分大変なの。早く真人間に戻ること以外に興味ないわ)
『…………』
(むしろ力とかいらないから今すぐお返ししたい)
『……ふっ、お主面白いのう。やはり妾はお主を気に入ったぞ』

 うーん………そう言ってもらえるのは嬉しいけど、気に入られる要素なんてあったか?

(そりゃどーも。ところでさ、なんか名前つけていい?九尾の狐さんとか、言いづらくてかなわない)
『ふむ、名前か。例えばどんなのじゃ?』
(そうね………ほむろ、とかどう?)
『ほむろか!なかなか良い響きじゃのう』

 おお。どうやら気に入ってくれたらしい。

(私は御影 雫(みかげ しずく)。よろしくね!)
『雫だな!良い名じゃ』
(ありがとう。あ、ところでさ、今森の中を歩いてるんだよね?)
『そうじゃが?』
(その辺に食べられる山草とか、薬草とかがあったら摘んでおいてくれる?)
『しかしそれは、妾が預かることになるぞ?』
(ええ、そうね。でも仕方ないわ)

 だって五感皆無の私にはできないもん。主になんの外界情報もないって意味で。さっきから厳重に握りしめている風呂敷が限界。

『それは、金稼ぎのためかの?』
(うん。京に行くんでしょ?真人間に戻る機会を得るためにも京に居座る必要があるでしょ?なら金はいるよ)
『一理あるのう』
(ところでほむろが物資を預かるって、どうやって?)
『それにはお主の助力が必要じゃ』

 私の助力?

『妾は今、風呂敷を一枚持っておる。お主の妖術を使って、妾の背中に風呂敷を結びつける必要がある。自力では結べぬのじゃ』
(妖術ってそんなこともできるの!?着替えを手伝ってくれるだけじゃないの!?)
『そんなしょぼいわけなかろう!やろうと思えば、妖力を操って畑仕事や家事をすることも可能なのじゃ。妖力を手の代わりにして道具を操ることもお手の物じゃ。妖狐どもが今までに召使を持っていなかったのも、妖力と妖術さえあれば召使など必要なかったからじゃ!』
(………………)




 あれ?もしかしてこれ、妖術を使えば五感皆無でも意外と生活に困らない……?
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