幕末☆妖狐戦争 ~九尾の能力がはた迷惑な件について~

九尾の狐の能力がはた迷惑すぎる件について

「…………………」
『…………………』

 暗い丑の刻の社の中で、私は現在、しっぽが九本ある狐と黙って睨み合っています。

 いや、睨んでるのは向こうの狐さんの方であって、私は別に何もしてないんだが………。

 ただどうしたらいいかわからず、狐さんを見てるだけだから。

 あ、驚きに目を見開いてガン見してる自信ならあるけどね。

 ま、そんなことはどうでもよくって。

 どう頑張って数えても………あいつ、尻尾九本あるよ?

 いや、そりゃあ最初から気づいてたけど、あまりに九尾の狐を見ているという事実が信じられないぐらいファンタジーなことだったから、ちょいと現実逃避してた。

 これ夢の世界だ!って全力で思い込もうとしてた。ほっぺつねったら痛かったけど。いやだ、現実を直視したくない。

 でも、やっぱあれ、どうあがいても絶対に九尾の狐なんだよな………きっと。

 だって尻尾が九本ある狐だよ?"九尾の狐"の漢字の構成文字も全て出揃ってるじゃんか。

 そういえば九尾の狐って、変身するのかな?妲己とか、玉藻前とかはさ、人間の女性の姿してるじゃん。

 まあ妲己はともかく、玉藻前は架空の人物だけどね。

 そんな風に一人悶々と考えていると、お座りしていた九尾の狐が急にのそりと起き上がり、何やら身構える。

 え。ちょっと今にも飛びかかってきそうな勢いなんだけど。

 そういえば生贄って何をする存在なの!?あの男はああ言ってたけど、絶対に一晩ここにいるだけの存在じゃないよね!?胸張って言えるよ!!

 まさか食われたりするの!?あの村人らしき男も、失敗したら死ぬって言ってたし………。

 そういや九尾の狐って妖怪だよね?妖怪って人間を襲うポジションにいるよね!?え、どうしよう。

 待て待て待て!

 のそりと九尾の狐が、こっちに一歩踏み出す。のそ、のそ、とこっちにゆっくり歩いてくる。

 ちょっ、来ないでよ!そんなのそのそ来られても困るんですけど!?

 そんな私の祈りが通じたのか、九尾の狐はこっちに来る歩みを止めた。とりあえず、一安心………?

 と思ったのもつかの間、九尾の狐はすぐにまた歩き始める。なぜかさっきよりも睨みの度合いが上がっている。

 え!?止まってくれたんじゃなかったの!?そしてなんでそんなに睨んでるの!?わたくし、何か粗相をいたしましたでしょうか!?

 私の前方4mぐらいのところまできて、九尾の狐は立ち止まった。

 そして一瞬身を引き、私をめがけて一直線に突っ込んできた。




 ほぼ反射的に、私は突っ込んできた九尾の狐の顔面に向かってグーの拳を振り抜いた。
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