クリスマスのお話
目の前にあるのは白、ではなく何故か黒い。もくもくと上がる煙からはお世辞にもいいとは言えない臭いが。もはや異臭。食べられるものの臭いじゃない。(本人が言うか)
「なんでえぇ…?」
ふにゃりと眉が下がって涙が浮かぶ。どう頑張ってみても目の前にあるのは真っ黒な怪しいシチュー、とも言えない未知の物体だ。
時計を見上げると時間はすでに8時。ここまで2時間もかかったのだから今から作り直すなんて絶対に無理。それにもう買ってきた材料だってない。
「うぅっ、ひっく…ふえぇぇんっ」
ぐすぐすと鼻をすすって溢れてくる涙を拭っているとカチャリと音がして。
「………」
「…うっ、く…おかえり、なさいぃっ」
「……ただいま?」
困惑。
その一言に尽きる表情を浮かべる豹くんがいつも通りすぎて料理で汚れた服なんて忘れて豹くんに飛びついた。
「ひょうくうぅんっ、ごめんなさいいぃぃぃっ」
うわーん!と泣くわたしに困惑しながらも豹くんは抱きとめてあやすようにポンポンと頭を撫でてくれる。
とりあえずわたしの格好とキッチンから醸し出される臭いにおおよその状況がわかったらしい。ぴっとりと抱きついて離れないわたしを気にせずにキッチンに行き火を止めていた。
豹くん、いつも通り冷静だね。もう表情もいつも通りだし。そんなところも好き。