想いはトクベツよ!
司は少し戸惑った表情になっていた。


(どうして・・・シエナは俺を恨んでいないんだ?

西岡君が死を覚悟していたとわかったからか・・・?いや、それなら彼女は記憶までなくさないはずだ。)



「どうしたんだ?俺が憎くないのか!」


「もういいの。あなたを恨んでも亨くんがもどってくるわけじゃないもの。
どうしても思い出せなかったことが思い出せたわ。

あ、結婚は続けるわ。そういう約束だもの。」


「無理はしなくていいよ。貴樹のとこの社員は希望退職者以外は誰も解雇されないから。
シエナが我慢する必要はない。

もうないんだ。だから・・・」



「もし・・・もしも私がいても嫌じゃなかったなら、予定通りあなたのそばで働かせてください!」


「シエナ・・・君は。」


「私見たの・・・体が回復してから、私が誤解から言い過ぎたって反省してから・・・あなたの実家へいって。」


「はっ・・・見られてたのか。カッコ悪いな。
まさか!まさか・・・俺の姿を見て君は・・・記憶をなくしてしまったのか?」



「ええ。たぶん・・・どこを見ているかもわからない瞳。
椅子に座ったまま、放心状態で青い顔をしてた。

悪天候の中、私を助けにきてくれたのに、私は人殺しとまで罵って・・・でも、すぐに真実がわかったからすべて解決したのだと思い込んでたのに。
私の中では終わったことができたのに・・・私のせいで、あなたの1年を奪ってしまった。

こんなに私の言葉に傷ついて、ご家族の方に申し訳なくて。
私の1年を差し上げたいって思ったら・・・何もかも忘れてしまって。」




「そんなの気にしなくてよかったのに。
俺は西岡くんよりずっと年上なのに、彼に指示され、彼を見捨てた。
彼の最期の笑顔を忘れようとしても忘れられなかったんだ。

君の言葉のとおりだと思ってね。
彼は何も悪いことなんてしてない。
痛みももう感じないほどのケガをしていながら、君の心配をして。

俺は君と同い年の彼に完全に負けた。
ずっと、あの笑顔が頭の中から離れずにいる。

そう思ったら、体が動かなくなってね。
弱いだろ・・・いい歳をしてさ。」


「私がそばにいるのは嫌になったんですか?」


「そんなわけない。そんな・・・俺は君を・・・いや、べつに。
けど、この結婚を続けてくれるなら、妻を続けてくれないか。
あの事故のことをなかったことにはしない。

記憶がお互いあるまま。西岡くんの笑顔を知っているものどうしで、努力してみないか。」


「司って呼び捨てにしながら居てもいい?」


「もちろん。家ではかまわないよ。
ただ・・・外ではちょっとマズイかな。
でも司たんはもっと困るしな。
外では誰がきいてるかもしれないから、『あなた』の方が都合がいいけど。」


「了解。ふふっ・・・」


「ははっ。」

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