俺様副社長のとろ甘な業務命令
始まりは一本のルージュ



「外回り、行ってきまーす!」

「斎原(さいはら)ー! しっかりリサーチ頼んだわよー!」

「はい! バッチリ調査してきます! 行ってきます!」


社名の入った紙袋を掲げ、呼び止めた部長に笑顔を見せる。

デスクに向かっているみんなから上がる「行ってらっしゃい」の声を背に、足早にフロアをあとにした。



「ゆづー!」


一階のエントランスに向かうためにエレベーターホールで待機していた私を、あとから出てきた同期の志水美香子(しみずみかこ)が呼び止める。


「あれ? お昼?」

「うん。午後、来客対応があってさ、早めにお昼行っていいってお許しが出たからさ」


ピンクの長財布を抱えてニコリと微笑む姿は、今日も安定の可愛さ。

ゆるふわに巻いた髪を凝ったアレンジにして、今日はダスティピンクカラーの上品なワンピースを着ている美香子。

女子力の高い雰囲気はいつ見ても目の保養になる。


「それにしても、一人で大丈夫? 街頭調査ってだいたい二人で行くのにさ」

「仕方ないよー。金子さんお休みだし、大丈夫」

「代わりに行ける人、今日に限っていないんだもんね、ついてないよ。私、来客なかったら同行したのに」

「ありがとう。まぁ、何とかなるっしょ」



今日は午後から、新商品開発のための調査を行うため、一人渋谷に出ることになっている。


私が働く化粧品メーカー『CHiC make tokyo』は、外資系化粧品ブランドで、日本に上陸してから幅広い世代に大人気ブランドとなり、年々業績を伸ばし続けている業界注目の企業だったりする。


近年は日本発の製品の開発にも力を入れ始め、今回は十代から二十代の若い世代向けの新製品の発売が決定。

その新商品開発プロジェクトチームに参加させてもらえることが決まったのは、ほんの数週間前のこと。


広報宣伝課に配属されている私は、新商品開発に向けての消費者調査と商品発売に向けてのPR活動の他、今回はやりたかった商品企画にも携われることとなっている。


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