俺様副社長のとろ甘な業務命令
「ていうか、お姉さん、すっごく綺麗ですよね!」
「ねー! メイクも超上手だし憧れるー」
「えっ、いやいや、褒めすぎじゃない?」
「お姉さんがつけてるリップって、やっぱり自分のとこの商品ですよね?」
「あ、これ? うん、少し前に出たやつなんだけど、ちょっと待ってね」
今日つけていたグラデーションリップについて聞かれ、サンプルで持ってきていた現物を足元に置いた紙袋から取り出す。
一本のルージュで簡単にグラデーションリップが作れる商品は発売から話題となり、売れ行きも好調な商品の一つだ。
「難しいグラデリップを簡単に作れちゃうって商品なんだけど、今日つけてるのはこのカラーで、五色展開なんだけど、良かったらつけてみる?」
「えっ、いいんですか?」
「うん、良かったらぜひ。あ、他のカラーも見せるね。今日つけてるようなレッド系のカラーのもあるから、ちょっと待って」
見せたルージュを手にしたまま、他のカラーも取り出そうと振り返った時、足元のマンホールにパンプスのヒールが突き刺さり、グラリと体勢を崩しかける。
まずい、と思った時にはパンプスから足が離れ、咄嗟にもう片足でバランスを取った。
「大丈夫ですか!?」
背後から女の子たちの声が上がった時、私は自分の目の前の光景に絶句していた。
う、嘘……。
彼女たちに見せるために長めに出していたルージュ。
先端が折れ、アスファルトの地面にポロリと落ちる。
目前に迫った濃紺のスーツには、ピンク色のルージュがべったりとついていた。