俺様副社長のとろ甘な業務命令
「でも、こんな素敵なところ、私なんかと来ちゃって良かったんですか?」
並んでいるフォークやナイフを見る限り、今から順にフルコースの料理が運ばれてくるに違いない。
そんなことを話しかけたタイミングで、黒いエプロンが決まっているウェイターさんがやってきて、カクテルグラスに入っている前菜を置く。
出てきたハマグリのジュレ添えはゼリーがキラキラと輝いていた。
「まぁ、仕方ないよな、今日一緒にいたのが斎原だったんだから」
ウェイターさんが去ると、副社長はそんなことを言って意地悪く口角を上げる。
あまりにサラリと仕方ないなんて言われてしまって、さすがにグサッときてしまった。
聞いたのは私の方だけど、そんなにズバッと言わなくても、なんて思ってしまう。
「ですよね……すみません、私なんかがお供で」
「膨れるな。お前、すぐ顔に出るよな」
伏せていた目を上げて見た副社長は、まだ意地悪く笑ってこっちを見つめていた。
目が合うと肩を揺らしてククッと笑い「だからいじり甲斐あるんだけど」なんて呟く。
「副社長って、意地悪ですよね……」
「意地悪? そんなこと今まで言われたことないけど」
「そうですか。じゃあ、今日から言われたことあるってことにしてください」
「心外だな。それを言うなら、意地悪じゃなくて可愛がるだろ」
「えっ、どこがですか!」
「どっからどう見ても部下への愛情だと思うけど」
「もういいです。じゃあそういうことにしておきますよ」
余計なことを仕掛けると、結局こっちがこんな風にたじたじになってしまう。
勝利した副社長はフッと笑うと「次が出せないから早く食べろ」なんて急かす。
せっかくのオシャレな前菜を慌てて食べる羽目になり、大きなハマグリに申し訳ない気分になった。