俺様副社長のとろ甘な業務命令
「お誕生日、おめでとうございます」
一礼して去っていくウェイターさんを驚きの眼差しで見上げる。
そのまま正面に視線を移すと、弾ける眩い花火の向こうに副社長の微笑が見えた。
「どうして……」
「誕生日に一緒にいたんだから、このくらいしないとバチが当たりそうだからな」
「今日のこと、知ってたんですか……?」
その質問に対して明確な答えは返ってこなかったけど、フッと笑うその姿に意味を察する。
筆記体で書かれた『Happy Birthday』のチョコの文字を見つめながら、胸の奥がジーンとくるのを感じる。
「誕生日に予定もないなんて寂しいこと言ってんだから、どうせ一人でケーキだったんだろ?」
「ゔ……それは、御名答ですけど……」
「だったら、相手が俺でも一人よりはまだマシだよな」
自分を卑下する身分なんかじゃないのに、そんな言い方をされると敵わない。
普段みたいな調子で言葉を返すこともできず、ただ黙って可愛らしいケーキを見つめるしかなかった。
朝からずっと一緒にいたのに、今日が私の誕生日だなんてこと、まるで知らなかったように触れもしなかった。
それなのに、本当は知っていたのに、こんなタイミングで明かされるなんて策士としか思えない。
「ありがとう、ございます……すごく、嬉しいです」
こんなに感動的なサプライズをされて、憎まれ口なんて叩けるはずもなかった。
素直に気持ちを伝えた私に、副社長は満足そうに微笑んでみせる。
トクントクンと、鼓動が静かに音を立てていくのを感じていた。