俺様副社長のとろ甘な業務命令
「これねー、話題の落ちないルージュってやつは」
「あっ、見せて見せて!」
美香子が興味津々に手に取ったのは新商品のルージュ。
それに横から笹野先輩が飛び付く。
今回の新商品のラインの中でも、一番の売りなのがこの『落ちないルージュ』だ。
朝つけたら夜までお直し不要の耐久性を追求したこだわりのルージュは、若い女の子たちに魅力的な『キスしても落ちないルージュ』がキャッチフレーズ。
乙女なデザインの中身はかなりの実力派。
これはきっと話題になると踏んでいる。
「でも、本当にキスしても落ちないのかね」
キャップを外し中身を出して眺めながら、美香子がそんな疑問を口にする。
「耐久性のテストは何度かしてるから、偽りはない仕上がりのはずだよ」
「でも、試してはないでしょ?」
「え、試すって?」
「だから、キスして落ちないかだよ」
「それは……試しようがないけどね」
「ほらー、じゃあわかんなくない?」
キャッチフレーズでそう謳っていても、さすがにそこは実証できない。
まさか本当に試すってわけにもいかないし、むしろ誰がそれをやるんだって話だ。
「イメージだよ、イメージ。そのくらいの耐久性はあるってことでさ」
話をまとめるようにそう言ってみると、美香子と笹野先輩は二人してその点について盛り上がり出す。
美香子が「先輩、試してみてくださいよ」と言うと、笹野先輩が「試せる相手いないし!」と噛み付いた。