俺様副社長のとろ甘な業務命令
そんな中、周囲から「おはようございます」の声が聞こえてくる。
顔を向けると、珍しく遅めにオフィスに入ってきた副社長の姿が目に映った。
私のデスク周りにできている人だかりに気付き近付いてくる。
「おはよう」
副社長がやってきたことで、集まっていたみんなの空気が一気に華やぐ。
「おはようございます」
「届いたのか」
「あ、はい。すみません、先に開けちゃいました」
「いや、構わない。今から本社に行ってくる」
「えっ」
「プレゼンまでには戻るから、準備は任せる」
「あ、はい、わかりました」
取り留めもない仕事上の会話。
それなのに、密かに緊張が募る。
土曜日に副社長と私が一緒に過ごしたこと。
朝から家に行って副社長のご飯を食べたことも、
素敵な服を買ってもらってしまったことも、
誕生日のサプライズをしてもらったことも、
ここに居合わせる誰もが知らない。
そう思うだけで何だか落ち着かない気分になってくる。
だけど、副社長はそんなことがあったなんて全く匂わせることもなく、普段と何ら変わりない様子で立ち去っていく。
それがあまりに普通で、あの日の全てが嘘だったんじゃないかと錯覚を起こしそうになった。