俺様副社長のとろ甘な業務命令
投げ掛けられた言葉に顔を上げると、外を見るのをやめた副社長が近付いてくるのが目に映った。
すぐ目前までやってくると、長い指が並んだコスメに近付く。
選ぶようにして摘まれていく一本のルージュをぼんやり見つめていた。
「試せないこと……とは」
女性が扱うルージュを、ゴツゴツした男性の指が手にするのは妙に違和感を感じる光景だった。
でも、そこにある綺麗な顔がその違和感を中和させる。
ルージュのキャップを外した副社長の手がそっと私の顎に触れ、思わずびくりと肩を震わせた。
「あのっ……」
触れられたことで、途端に激しく心臓が鼓動し始める。
一気に動揺して表情を強張らせる私を前に、副社長はいつもの余裕な笑みを浮かべていた。
「着け心地の意見を聞きたい」
何だ、そういうことか。
とか一瞬安堵したものの、この状況に落ち着けるはずもなく、鼓動はますます強く打ち付ける。
「あっ、そういうことなら、私が自分で」
何とか発した声も虚しく、ルージュが唇に触れる。
「黙って」なんて言われてしまうと、それ以上何も言えなくなってしまった。