俺様副社長のとろ甘な業務命令
ルージュが唇に載るのを感じながら、完全にどこを見たらいいのかわからなくなっていた。
目の前には副社長の整いすぎた顔があって、その視線は私の唇に向かっている。
こんな状況で緊張するなと言われたって無理な話。
顔も熱いし、きっと赤面して酷い顔になっているに違いない。
定まらない視線とガチガチになった体に耐えながら、ただ解放される時をじっと待つ。
ルージュを塗り終えて手を離した副社長は、確かめるように私の顔を見つめる。
いい加減その目に見られることに限界がきて、逃れるように俯いていた。
「いつだか……言ってたよな? 魔法のアイテムだって」
記憶を手繰り寄せる。
確かそれは、この会社にどうして入社したか聞かれた時に答えたことだった。
コスメは、女の子を可愛くする魔法のアイテム。
だから、そんな魔法のアイテムを作り出す人になりたいと、そんなことを答えた。
でも何故、今そんなことを話題に出すのだろう。
ドキドキが尾を引いて、返事もできなければ顔を上げることもできず、ただその疑問が頭の中で旋回する。
反応のない私を笑うように、副社長はフッと息を漏らした。
「言いました……言いましたけど」
どうしたらいいものかと困り果てた私へ、副社長の手が再び視界に入ってくる。
今度はこめかみから髪を梳くように指を差し込まれ、嫌でも顔を上げるしかなかった。