俺様副社長のとろ甘な業務命令
「なっ……何、するん……ですか」
やっと出せた声も呼吸が乱れて自分ですらよくわからない。
もうここまできたら羞恥心に構っている暇もなく、すぐ真上にある顔を抗議の目で見上げる。
でも、睨むような視線を受けても副社長はダメージ0。
あんなキスをしたくせに、眼を潤ませて困惑しているのは私の方だけで。
それどころか、柔らかく微笑まれてしまい、出てこない文句が更に奥にいってしまった。
何とか自分の足でしっかりと立ち、後退りするようにして距離を取る。
副社長はそんな私をフッと鼻で笑うと、親指で自分の唇に触れてみせた。
「誇大広告にはならなそうだな」
「……へっ?」
唇を拭う仕草を目に、今のキスがルージュの耐久性を確かめるための行為だったと知る。
『だから、キスして落ちないかだよ』
今朝、美香子が言っていたそんな言葉が鮮やかに蘇る。
まさか自分が、しかも相手が副社長で、それを確かめることになるなんて……。
「広報としては、実際に調べとく必要があることだろ?」
しらっとそんなことを言われて、「はい、そうですね」なんて答えられるはずもなく、ただ驚愕したまま立ち尽くす。
「……し、失礼します!」
結局、一気に起こった何もかもを処理できないまま、その場を逃げるように立ち去るしか出来なかった。