俺様副社長のとろ甘な業務命令
告白は突然に
お家でレストランレシピ……んー、何かいきなりレベル高い?
レンジで簡単、火を使わないレシピ集……いや、これじゃさすがにな。
男子が喜ぶカレご飯……こういうやつか?
終業後、一人書店の料理書売り場で表題と睨めっこ。
今日はここ最近では珍しく残業なしで退社ができ、『B.C. square TOKYO』二階に入る大型書店へと立ち寄っていた。
買いに行かなくてはと思っていたレシピ本。
誕生日のあの日に言われた、副社長の本気か冗談かわからないごはん作り命令。
もしかしたらいきなり呼びつけられて披露する羽目になるかもしれないと思うと、いつそれが起こっても対処できるように万端にしておかなくてはいけないと思っていた。
あの衝撃の出来事から早くも一週間以上が経とうとしている。
逃げるように帰ったあとも、しばらく暴走した心拍は正常に戻らなかった。
色々と処理できなかった分、落ち着くと無駄にあれこれ考えてしまって、また一人で動揺して……その繰り返し。
家に帰ってから見た塗られたルージュに、鏡の中の自分がまた赤面していた。
副社長の家で朝を迎えてしまったあの翌日も相当な出社拒否病を発症したけど、今回は更にその上をいく重病だった。
考えてみれば、あの日は本当に何かがあったのか疑う状態だったけど、今回は状況が違う。
全てはっきりとした意識の中で起こったことだし、鮮明に覚えているしで、思い出すだけで簡単に赤面できるほどの威力で。
だけど、意を決して出社した私に、副社長は「全部忘れていったぞ」とくれたコスメを普通に手渡してきた。
それはもう誰が見てもいつも通りの副社長で、微々たる気まずさも照れ臭さも一切皆無。
私はと言うと、やっぱり動揺して上手く受け取れなかったコスメをポロポロと床に落とすというテンパりぶりを発揮していた。