俺様副社長のとろ甘な業務命令


でも、正直なところ、いつまでもあの時のことに囚われているのは、あのキスのせいでもある。


こんなこと思い出すのもなんだけど、凄くキスが上手かった。


語れるほどそこまで経験が豊富にあるわけじゃない。

だけど、私の知る中ではいきなり断トツ。

例えるなら、力が抜けるような、蕩けてしまいそうな、そんなキスだった。


恋人でもないのに、恋愛感情なんてないのに、あんなキスをするなんて反則だ。

おかげでいつまでもあの時の感覚が忘れられないで残っている。


……って、もうやめよう。

また考えてたら、いつまで経っても忘れられないんだから。


本選びを再開したところで、「あれ?」という声が聞こえた。


「佑月?」

「颯ちゃん!」


声の先には、料理書コーナーの向こうの通路で立ち止まる颯ちゃんの姿があった。

スーツにコートを羽織り、カバンを手にしている様子はどうやら仕事帰りのようだ。

顔を見た途端、ハッとこの間のことを思い出した。

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