俺様副社長のとろ甘な業務命令
「それにしても、やっとうちに寄ってくれたね。いつ誘っても帰っちゃってたからさ」
「あぁ、そうだな」
お湯が沸騰してくるのを待ちながら、カウンターに置いた買ってきたレシピ本を袋から取り出してみる。
結局、あれこれ悩んで一番内容が無難そうな『カレご飯』なんてタイトルの本を買ってきてしまった。
だけど、このタイトルどうなのよ?なんて心の中で自分に突っ込んでしまう。
急に小っ恥ずかしくなって中身を開かずまたカウンターの上へと戻した。
「最近、あの副社長さんとはどうなんだ?」
「えっ?」
湯気が微かに出てきたケトルの口を見ていた時、向こうからそんな質問を投げ掛けられた。
不意に出された副社長の名にドキリとしてしまう。
「あー、う、うん。まぁ、それなりに何とかやってるかな……」
前に色々愚痴った事もあるし、一緒に仕事をしていることを気に掛けて訊いてくれたのかもしれない。
だけど、副社長のことを今話題に出されるのは何だか居心地が悪い。
返事をしてからは颯ちゃんからそれ以上の反応はなく、ホッとしながらシンク下に仕舞ってあるティーセットを取り出しにかかる。
扉を閉めて立ち上がると、さっきまで向こうにいた颯ちゃんがカウンターの横に立っていた。
「あ、ごめん。もうちょっとで入るから」
「あの人も、ここに来たことあるんだ?」