俺様副社長のとろ甘な業務命令
手に取った茶葉の缶が床に落ち、静かな部屋に音を立てる。
急なことに驚いて固まってしまった私を、颯ちゃんは更に力を込めて抱き締めた。
密着する体に困惑する。
さっきまでの緊張とはまた種類の違う鼓動の高鳴りに全身が包まれていくのを感じていた。
「颯ちゃん……? あの、酔ってる?」
「酔ってないよ」
お酒のせいではない。
それを証明するように即答される。
じゃあ、この状態はどういうことなのかと自問する。
眼下にある私を抱き締めているこの手は、一体誰のものだろう。
颯ちゃんにこんな風にされたことがないからこそ、そんなことを思って混乱してしまう。
沈黙が落ちた無音の部屋で、颯ちゃんの唇が耳元に近付くのをダイレクトに感じた。
「佑月……ずっと言えなかったけど……ずっと好きだった」
静かに告げられたその言葉に、瞬きを忘れるほどの衝撃を受けていた。
目を見開いたまま、コクリと息を呑む。
「このままの関係でもいいかなって、思ってた……けど、やっぱり無理だ」
いつも穏やかで落ちついている颯ちゃんの、どこか余裕のない声。
それだけで十分、この場を誤魔化すなんてことはできないと追い詰められる。
抱き締める腕が緩まり、コツンと頭に颯ちゃんの顎が乗った。