俺様副社長のとろ甘な業務命令
いよいよだ。
樋口朱里だ、本物だ!
仕事中にも関わらず、内心めちゃくちゃ野次馬根性丸出しでそわそわとしてくる。
スタッフ数人と現れた樋口朱里は、衣装の上にベンチコートを羽織った格好で現場へと姿を現した。
や、やばい……。
テレビで見るより更に可愛すぎる。
これは同じ人間なのか?
なんて疑問さえ持ってしまうほどの衝撃を受けながら、その破壊力にしっかりやられる。
彼女が現れた途端、現場の空気が一気に華やかになったのを肌で感じていた。
「樋口です、よろしくお願いします」
撮影スタッフや関係者に挨拶をする樋口朱里は、その綺麗な顔に笑みを浮かべることなく一礼する。
多忙すぎてお疲れなのかもしれない。
カメラが回らないところでは不必要に笑顔を振りまいたりしないあたり、その疲労感がどこか伺える。
早速監督から撮影についての説明を受ける樋口朱里を前に、スタッフも慌ただしく動き始める。
その様子を遠目に眺めていると、話を聞いている樋口朱里がキョロキョロと何かを探すように辺りを見渡す仕草を見せ始めた。
監督や周囲にいるスタッフに何かを訊ね、その美しい顔が急にこちらへと向く。
何かこっちの方を見ているような、なんて思っているうち、彼女は一人こっちに向かって歩いてくる。
いつもテレビ画面や誌面で見ていた顔がすぐ目の前までやってくると、その非現実感に思わず背筋がピンと伸びてしまった。