俺様副社長のとろ甘な業務命令
とにかく、知り合いということは間違いないらしい。
撮影が始まった現場を見守りながら、やっぱり今日はこの場に副社長がいるのが最善だったんだろうと思っていた。
名前で呼ぶくらいの間柄ということは、それなりに親しい知り合いということになる。
それに、さっきの彼女の態度を見る限り、それなりの好意があることが窺えた。
そこまで考えて、あぁと気付く。
最終的には樋口朱里に決まったけど、モデル決めをする時に副社長がどこか渋るような空気を発していた。
あの時は全く気にも留めなかったけど、もしかしたら彼女と顔見知りなのが関係しているのかもしれない。
もしかして、仕事をするのが気が引ける深い関係とか……。
いや待て。
でも、歳もそこそこ離れてるだろうし、まさかそんなことはないか……。
副社長の歳は未だ正解に知らないけど、私と大して変わらないと推定すれば、樋口朱里じゃ微妙に犯罪の域に入るし。
って、何を考えてるんだ私は。
とはいえ、顔見知りなら言ってくれれば良かったのに。
「休憩入りまーす」
撮影が始まって一時間が過ぎた頃、一旦休憩の声がかかった。
高層階にある屋外の現場は昼過ぎの晴天といえ、コートを着込んでストールを巻いていてもかなり冷え込む。
衣装の上に再びベンチコートを着せられた樋口朱里は、持ち込まれたストーブの前に案内されていた。
「朱里ちゃん今日どうしたの?」
「いや、何か機嫌悪いっぽいよ」
「えっ、何で?」
「さぁ? でもさっき、やりたくないみたいなこと言ってたらしいよ」