俺様副社長のとろ甘な業務命令
しばらく経った頃、近くで待機していた女性スタッフの噂話のような声が耳に入ってきた。
不吉な内容にギクリとする。
ちょっと待った。
それってまさか、副社長がいないからとかじゃないよね?
その原因に思いっきり心当たりがある。
聞き耳を立ててみたものの、それ以上の情報はゲットできないまま二人は立ち去っていってしまった。
撮影の進捗状況は素人の私にはよくわからないけど、もしかしたら雲行きが怪しいのかもしれない。
そのせいなのか、さっき始まった休憩がもう三十分は経過するけどまだ終わらない。
食事休憩でもないのに、こんなに長く休憩は取るものなのだろうか。
不安が募るのを鎮めながら、撮影再開を黙って見守る。
そんな中、助監督だと紹介された人がこっちに駆け寄ってくるのに気が付いた。
「すみません、ちょっとよろしいですか?」
どこか神妙な面持ちで声を掛けられ、まさか、そのフレーズが頭を過ぎった。
「実は……ちょっと撮影が難航しそうでして、もしかしたら今日は中止の可能性も」
「えっ! 中止……ですか?」
「はい。樋口さんがちょっと……」
嫌な予感は見事に的中したらしい。
あからさまに驚いた反応を見せた私に、助監督は困ったように弱々しく笑ってみせる。
「まぁ、女優さんにはね、よくあることなんですけどね」
「よくあることって……じゃあ、中止になったら日を改めてということになるのですか?」
「ええ、最悪そうなる場合も」