俺様副社長のとろ甘な業務命令


CM撮りが延期になれば、それに伴って全てのスケジュールに狂いが生じてくる。

延期にして日を改めたとしても、納期に間に合わせるためには、裏で仕事をする人々が多大な迷惑を被ることになるのは目に見えている。

そんなことを考えているうち、沸々と怒りにも似た感情が湧き起こってくるのを感じていた。


普通の会社勤めの私には、特殊な業界で仕事をする女優の気まぐれなんて理解できない。

でも、社会人として任された仕事をしっかりやり遂げること。

それはどんな業界でも変わるはずはない。


一緒に仕事をする人たちや、更にそのバックで働く人々に、なるべく迷惑を掛けないように自分の仕事をこなす。

そんな、最低限のルールも守れないというわけ?


「あの……樋口さんと、お話させてもらうことは、できませんか?」

「え? あー、でも今、監督とマネさんが説得しているところで」

「うちの大事なCMなんです。私からもお話させてください」

「あっ、斎原さん!」


渋る助監督を押し切る形で、樋口朱里を囲む集団へと向かっていく。

ずかずかと歩み寄ってきた私に、不機嫌な顔で説得を受けていた樋口朱里が目を向けた。


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