俺様副社長のとろ甘な業務命令
「あっ、斎原さん、すみませんね、もう再開しますので」
顔を出した私に、監督は焦った声であれこれ弁解を始める。
寄り添うようにして付いていたマネージャーの女性も、急かすようにして樋口朱里の腕を揺すってみせた。
「私は……渋谷の街頭に立って、今回の商品を作るために女の子たちに話を聞くところからこの商品に携わってきました。その声を聞いて、どんな物を作ったらいいのか、考えてきました」
こんな話をして、どうするのだろう。
自分でも何が言いたいのか分からないまま口を開いていた。
その場に居合わせる全ての目が私に集まる。
「我が社の社員や、この商品に携わって下さったたくさんの人たちのおかげで、デザインも、商品の中身も、自信を持って世に送り出せる物が出来上がりました」
「……私に、そんな話しても――」
「だから、その最後の大仕事を、樋口さんにお願いしたいんです」
冷めた樋口朱里の声を、私の熱い声が遮る。
どうしてそんな話をされなくてはいけないの?
そんな視線に射抜かれながらも、気持ちを奮い立たせて言葉を続けた。
「樋口さんなら、こんな風に可愛くなりたいな、とか、女の子たちがワクワクするような、みんなが憧れる素敵なCMが仕上がると、社員みんな期待しています。
だから……この商品をたくさんの人に知ってもらうために、使ってみたいなって思ってもらうために、あなたの力を貸してください! お願いします!」
モデル決定会議の日、きっといいCMができると、期待を胸にみんなで盛り上がった。
商品が完成した日は、コスメが大好きな同僚たちがいい物ができたと認めて褒めてくれた。
そして、「頼んだぞ」と今日のことを託してくれた、ここまで一緒にやってきた副社長を思う。
みんなの期待や思いを、私が今、全て背負って立っている。
口にしたありったけの思いは、拙くてちゃんと伝わったかは分からない。
だけど……。
お願い……!
その想いを込めて、頭を下げたままギュッと強く目を瞑った。
「我が社の社員が、出過ぎたことを申しまして失礼しました」