俺様副社長のとろ甘な業務命令



私の声を最後にしんとしていた現場。

そこに聞こえてきた、低く品のある落ち着いた声。

まさか、そんな思いで振り返った。


「ですが、私からもお願いします」


私の斜め後ろで頭を下げたその姿に息が止まりかける。

見ている光景に目を疑うしかなかった。


「ふ、副社長……」


きっと、幽霊でも見てしまったような顔をしているに違いない。

頭を上げた副社長は、フッと口角を上げると私の肩を軽く叩き頷く。

張り詰めていた気持ちが一気に安堵するのと同時に、想定外の展開に感情が高ぶって視界が潤むのを感じていた。


「翔君! 来てくれたの!?」


副社長の登場で、さっきまでの不服な顔が嘘のようにパッと明るくなる樋口朱里。

嘘でしょ?!と突っ込みたくなる思いになったけど、ぐっと堪えて心の中だけに留めておく。

機嫌を直した彼女の様子に、緊迫していた現場がホッとしたような空気に包まれていた。


「監督、もう少しだけ時間いいですか? ちょっと二人で話がしたいんで。翔君、いいよね?」

「撮影を続行してもらえると約束していただけるなら伺います」

「だから、それを今から話すんだよ!」


ビジネスモードで応対されても全くお構いなしの樋口朱里は、軽い足取りでこっちにやってくると副社長の腕を掴みグイグイと引っ張っていく。

現場から離れた場所までいくと、二人は対面して何かを話し始めた。


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