俺様副社長のとろ甘な業務命令
「驚きました……間に合わないって言ってたじゃないですか、大丈夫だったんですか?」
無事撮影が再開された現場を眺めながら、隣に立つ副社長をチラリと見上げる。
見張るような真剣な視線を現場に送ったまま、副社長は「あぁ」と短く返事した。
「何とか間に合うように調整したから問題ない。やっぱりお前一人じゃ心配だったからな」
「えっ、任せるって言ってたのに、何ですかそれ」
「とか言って、ギリギリな感じだったろうが」
「それはっ……そうですけど……」
「なんてな、冗談だよ」
プッと吹き出す相変わらずのいじりっぷりに、やっぱりムッとしてしまう。
確かにかなりギリギリでしたけどね。
「でも、カッコよかったよ。さっきの斎原」
「え?」
「好きで情熱があるからこそ、あんな風に言えたんだって思った。会社のために頭まで下げて、やっぱりお前は凄いよ」
思いもよらない言葉を掛けられ、どこを見たらいいのか分からなくなった。
カッコよくなんて全然ない。
ドラマのヒロインみたいに、ピンチをチャンスに変えてしまうような、そんな場面にも程遠かった。
いっぱいいっぱいで、頭の中は真っ白になって。
副社長があのタイミングで来てくれなければ、私は下げた頭を上げる事がきっとできなかった。
カッコいいのは、副社長の方だ。