俺様副社長のとろ甘な業務命令
「一体どこから聞いてたんですか……」
「渋谷の街頭に立って、ってとこから聞いてたけど」
「……思いっきり始めの辺りからじゃないですか。それならもっと早く口出してくださいよ」
照れ隠しもあってギロリと睨んで 顔を見上げると、それを跳ね返すように微笑まれてしまう。
意地悪だけど、その裏にはどこか優しさが隠れている微笑み。
私はこんな副社長の顔に、もう幾度となくドキドキさせられている。
その度に胸の奥が熱くなって、どうしようもなく苦しくなる。
それを隠すようにそっと目を伏せた。
「それに……凄くなんてないです。あれが、私の精一杯でした。それだけです」
「わかってないな」
「……?」
「それが凄いって言ってんだよ」
やることがあるからと、副社長は先にオフィスに戻ると言ってその場を静かに離れていった。
順調に進む撮影を一人見守りながら、言われたその意味をいつまでも考えていた。
でも、それはいくら考えてもわかりそうになかった。
「お疲れ様でした」
いつしか撮影は終わり、そこにはよく知る笑顔を浮かべた樋口朱里の姿が遠くに見えた。