俺様副社長のとろ甘な業務命令
「撮影、無事に撮り終えたそうです」
一時はどうなることかとひやひやしたCM撮りも、副社長のおかげで事無きを得て終了した。
その知らせを持って、私は一人、十三階の副社長室へと訪れている。
帰国した副社長は相変わらず忙しそうにデスクで書類を眺めていた。
「そうか、お疲れ様」
「はい、ありがとうございました。無理して戻っていただいて、本当に助かりました」
「あとは予定通り進みそうか?」
「はい。後日、撮影素材を持って来ていただくことになってます」
今後は演出コンテを元にCM仕上がりに向けて編集が進められていく。
社内試写を行い、最終的な修正、オンエアタイプの決定をし、放映されるCMが仕上がってくる流れとなる。
「副社長、あの……」
「ん?」
「樋口朱里と、顔見知りだったんですね。どうして黙ってたんですか?」
さっきは聞けなかったことを今になってやっと聞いてみる。
そんな質問をされても、副社長は顔色一つ変えることなく向かいの私へと視線を寄こした。
「黙ってたつもりはないけど、別にわざわざ言うことでもないと思ったからな」
「そうですけど……ずいぶん親しい間柄のように見えたので」
「何だ、気になるのか?」
「え、違っ、違います! そうじゃなくて、そりゃあんな有名な女優さんと知り合いだなんて、普通に何でだろうって思うじゃないですか」
いちいち心臓に悪い。
真面目な顔を努めて作って追求すると、副社長はやっぱり大したことなさそうに手元の紙に目を落とした。
「彼女とはたまたま昔の知り合いなだけだ。家が近くで、なぜか懐かれてた。斎原で例えるなら、あの上階の弁護士先生みたいなもんだ」
「えっ、幼馴染みってことですか」
「まぁ、お前たちみたいに大人になっても仲良しな間柄ではないけどな。もう何年も会ってなかったから」