俺様副社長のとろ甘な業務命令


副社長と樋口朱里が、まさかの幼馴染みという話に驚かないわけがなかった。

こういうのを、世の中狭いとまさに言うのだろう。

しかし、凄い組み合わせの幼馴染みだ。

うちの副社長と、あの人気女優って、肩書きも二人して凄いけど、何より揃って美しすぎる。


「でも、どうやって説得したんですか? あんなに渋ってたのに、すんなり撮影してくれましたよね?」


樋口朱里が副社長と話をしたいと言って連れ去っていった。

あの時に何かを話して彼女は納得し、再びカメラの前に立ったのだと思う。

それは、副社長が彼女を説得したか何かしたからに違いない。


「お前のことを話した」

「えっ? 私のこと、ですか?」

「今回のCM起用、さっきの熱い社員がどうしてもって推してオファーしたんだって」

「熱いって……」

「彼女も言ってたけどな、いきなり語り出して熱すぎでしょ、って」


カァッと頬が熱くなる。

あの時はとにかく必死で、何も考えず真っ直ぐ思いを伝えたい、その一心だった。

裏でそんなことを言われてたなんて……。


「でも、その後に言ってた」

「……?」

「あんな風に説得されたら、断れないって。熱意に負けたって。だから、俺が口を出さなくても撮影は再開されてたかもしれないな、斎原だけの力で」


現場を後にする時に見た、彼女の笑顔がふと脳裏に浮かぶ。


あんな拙い言葉でも、ほんの少しは伝わったのだろうか。

そう思うと、ちょっと救われたような、ホッとしたような、そんな気持ちになる。


出来上がったCMを見たら、やっぱり彼女に出演してもらって良かったと、きっと思うのだろう。

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