俺様副社長のとろ甘な業務命令
「呼び付けてごめんな」
やって来た私に、颯ちゃんは緊張を解くような優しい笑みを浮かべてくれる。
椅子を引いてもらい席に着きながら、「ううん」と小さく首を振った。
用意された窓際の席からは、輝く夜景がどこまでも望めた。
全てを見下ろす摩天楼は、この上ない贅沢で優雅な気分を訪れた人に提供している。
だけど、今はそんなリッチな気分に浸れる余裕もない。
「この間は……ごめん」
落ちかけた沈黙を先に破ったのは颯ちゃんの方だった。
チラリと顔を見て、私の視線はテーブル上に組まれた颯ちゃんの手元に落ち着く。
また「ううん」と返事をして、次の言葉を探した。
颯ちゃんの気持ちを知ったあの日。
どんな感情よりも驚くことが最優先だった。
もちろん、嬉しいと思う気持ちは確かにある。
だけど正直、今までの関係が崩れてしまいそうで、それが一番怖い。
もし、一度深い関係になってしまえば、もう今までの二人にはきっと戻れない。
最悪、今のこの状況よりももっと気まずくなって、修復は不可能になる。
今だって、すでに二人の間にはおかしな空気が流れているのに、この先に踏み込んでしまったら、どうなってしまうのだろう……?
颯ちゃんとの関係を、恋愛に持ち込んで壊したくないと思う自分がいる。
でもそれは、私の身勝手な、都合のいい考えなのかもしれない。
だけど、今あるこの気持ちに、やっぱり嘘はつけない。
「あの、颯ちゃん……あのねっ、私」
「この間のこと……やっぱり、聞かなかったことにしてもらえないかな」