俺様副社長のとろ甘な業務命令
どうして、何で。
頭の中が真っ白になる。
私を捕まえた副社長は、その腕にギュッと力を込めた。
「お前と初めて会った日……渋谷の店舗を覗きに行った帰りだった」
すぐ耳元で聞こえてきた副社長の声は、あの日の記憶を呼び起こす。
全身に響く鼓動を感じながら、突然始まった話に耳を傾ける。
「あの人混みの中で、一際目を引く生き生きとした顔が目に入ってきた……その手には、何のご縁かうちの製品があった」
新商品の街頭調査に立ったあの日、私は副社長に出会った。
突然現れた副社長のスーツを汚して、テンパって。
真っ青になったのを、今でもよく覚えている。
「うちの社員だと気付いて、声を掛けようと思って近付いた。まぁ……その後のことは想定外だったけど」
あの時の私の失態を振り返る副社長が、思い出したようにフッと息を漏らす。
その吐息にさえピクリと体を揺らした私を、副社長は腕を緩める事なく抱き締め直した。
「俺は、今の仕事に何の疑問もなく就いていた。この仕事の魅力もよくわからないまま、ただやるべきことをこなしてきた。だけど……斎原に出会って、それを知れるんじゃないかと直感したんだ」
「……?」
「あんな顔して仕事をするお前となら、この仕事の魅力を知れるかもしれないって」