俺様副社長のとろ甘な業務命令



どうして、何で。
頭の中が真っ白になる。

私を捕まえた副社長は、その腕にギュッと力を込めた。


「お前と初めて会った日……渋谷の店舗を覗きに行った帰りだった」


すぐ耳元で聞こえてきた副社長の声は、あの日の記憶を呼び起こす。

全身に響く鼓動を感じながら、突然始まった話に耳を傾ける。


「あの人混みの中で、一際目を引く生き生きとした顔が目に入ってきた……その手には、何のご縁かうちの製品があった」


新商品の街頭調査に立ったあの日、私は副社長に出会った。

突然現れた副社長のスーツを汚して、テンパって。

真っ青になったのを、今でもよく覚えている。


「うちの社員だと気付いて、声を掛けようと思って近付いた。まぁ……その後のことは想定外だったけど」


あの時の私の失態を振り返る副社長が、思い出したようにフッと息を漏らす。

その吐息にさえピクリと体を揺らした私を、副社長は腕を緩める事なく抱き締め直した。


「俺は、今の仕事に何の疑問もなく就いていた。この仕事の魅力もよくわからないまま、ただやるべきことをこなしてきた。だけど……斎原に出会って、それを知れるんじゃないかと直感したんだ」

「……?」

「あんな顔して仕事をするお前となら、この仕事の魅力を知れるかもしれないって」


< 161 / 179 >

この作品をシェア

pagetop