俺様副社長のとろ甘な業務命令
そんな話をされたら、堪えていたものが全部溢れ出して、取り繕いも全て台無しになってしまいそうだった。
視界が涙で揺れ始め、私をしっかりと抱き締める大きな手が歪んで映る。
「だから、お前がいる広報に異動を希望した。近くで一緒に仕事をしてみたいと思った」
そこまで話すと、副社長は私の体を反転させる。
今まで見られずに済んでいた顔を真正面から見つめられ、食い止めていた涙がとうとうポロポロと流れ出していた。
何で今、気付いてしまうのだろう。
どうしてこんなタイミングで、自覚してしまうのだろう。
今まで、無意識のうちに気付かないふりをしてきた自分の気持ち。
認めてしまうと、もう抑えきれない。
「どうして……どうして、いなくなっちゃう前の日に……気付かせるんですか」
涙に濡れる目で、すぐそばにある顔を見上げる。
今日気付かなければ、こんな気持ちにならなくて済んだかもしれない。
後になって気付けば、時間はかかっても忘れることができたかもしれない。
顔を見なくなれば、離れてしまえば。
それなのに……。
「もう……いなくなっちゃうのに……。私……副社長の事が」
そこまで言った言葉は、少し強引に重ねられた副社長の唇に遮られていた。
それ以上は言わせない。
そんな意味で塞がれたようなキスにまた涙が流れ落ちる。
そっと唇を離した副社長は、いつもみたいな意地悪な笑みを浮かべるわけでもなく、茶化すこともせず、真剣な目をして私を見つめ直した。