俺様副社長のとろ甘な業務命令
「社内試写の時間が変更になった。会議室、今から準備頼む」
私は、実はまだ眠っているのだろうか。
まだ目覚めていなくて、これは長い夢で、もうしばらくしたらあの広い部屋で一人目覚めるのだろうか。
見ている光景にそう解釈するしかなかった。
いるはずのない副社長が、目の前に立っている。
いつもみたいに仕事の指示なんか出したりしている。
幻でも見ているような気分で呆然としているうち、副社長は普段と変わらぬ颯爽とした足取りで立ち去って行ってしまう。
立ち尽くす私に美香子が背後から腕を絡ませた。
「何で……」
「ビックリしたでしょ? 私も朝来て聞いて驚いたよ」
美香子の弾んだ声にやっと時間が動き出す。
ハッとして横に立つ美香子に顔を向けた。
「え、だって今日からあっちにいるはずじゃ」
「それが、こっちに残れることになったんだって! 良かったよねー、朝からみんな大盛り上がりだったんだから」
そこまで話されても、すんなり「そうなんだ」なんて返事はできなかった。
まさか、そんなはず、その類の疑いの文句しか出てこない。
「ほら、仕事仕事。会議室準備しろって言われてるよ」
「あ、うん……行ってくる」
放るようにしてバッグを自分の席に置き、逸る気持ちを抑えて会議室へと駆け出した。