俺様副社長のとろ甘な業務命令
「ランチ、どこ行くの?」
「んー、どうしよっかな。ちょっと駅前に用があるからその辺で何か食べようかな」
やってきたエレベーターに乗って他愛ない話を交わしていると、数十秒で一階へと到着する。
エレベーターホールを出てゲートで社員証をタッチしたところで、先にゲートを出た美香子が「ゆづ!」と声を上げた。
「何、どしたの?」
「あれ! 橘さんじゃん!」
私の横にぴったりくっ付き、顔を寄せて興奮気味な声を出す美香子。
その視線の先には颯(そう)ちゃんの姿が見えた。
「いつ見ても素敵だよねぇ、橘さん……あんなイケメンでエリートと幼なじみなんて、ゆづはいいよねぇ」
うっとりとしながら美香子は囁く。
颯ちゃん――橘 颯太(たちばなそうた)は、実家が隣同士で、幼い頃から家族ぐるみの長い付き合いがある、世間で俗に言う幼なじみという間柄。
歳は一つ上で、私にとってはずっと一緒にいたのもありお兄ちゃん的存在だ。
高校までは同じ学校に通っていたけど、颯ちゃんはその後、国立大学の法学部へ。
私は地元の大学へ進学した。
大学入学と共に颯ちゃんは実家を出ていき、それからはお盆休みと年末年始くらいしか顔を合わせなくなった。
私の方も大学を卒業して今の会社に入社するのと同時に一人暮らしを始めて、ますます颯ちゃんに会うことはなくなったけど、三年前に突然の再会を果たした。
それがこのビル、『B.C. square TOKYO』でだった。
法学部を出て司法試験を合格した颯ちゃんは、私が勤める会社の上階にある法律事務所に入所。
ある日、バッタリこのビルで顔を合わせた。
偶然に同じ場所で働くことになったのにも驚いたけど、それより驚いたのはあの難関と知られる司法試験にストレート合格をしたということ。
司法試験て浪人するのがザラだって聞いていたから、まさか一発で合格してしまうなんて思いもしなかった。
昔から優秀なのはよく知っていたけど、颯ちゃんの頭の良さは本物だったようだ。