俺様副社長のとろ甘な業務命令
出掛ける準備をしながら落ち着いて考えてみると、昨日の血の気が引く思いがじわりじわりと蘇ってきてしまった。
副社長という立場の人に、自分は何という無礼なことをしてしまったのか、と。
極め付けには、つい口走った『超厄介』なんて発言までバッチリ聞かれてしまっていた。
厄介なのはどっちだ、なんて言われたけど、まさにその通り。
今朝、部長からお咎め無しだったのは、きっと昨日あの場所で会って、私があんな失態を犯してしまったことを、彼が言っていないのだと思われる。
でなければ、部長が私に副社長と組めなんて言うとは思えない。
「あのっ、副社長!」
先にエレベーターを待っていた副社長に駆け寄り、深々と頭を下げる。
「昨日は、本当に失礼なことをしてしまい申し訳ありませんでした」
「昨日のことより、今日の準備は滞りないんだろうな?」
「あ、はい!」
「作った資料」
到着したエレベーターに乗り込みながら、片手を差し出し資料を要求される。
慌ててカバンから持ってきた資料を取り出した。
この人、根っからの仕事人間……とか?
受け取った資料に目を落とす横顔を眺めながら、そんなことをふと思う。
余計なことは話さないオーラが放たれていて、また謝罪は受け入れてもらえず流された模様。
別にいいっていうなら、気にしなくていいとか、大丈夫だからとか、何か一言くらい言ってくれてもいいのに。
これじゃあ、完結しないというか、こっちがずっとモヤモヤしちゃうよ……。