俺様副社長のとろ甘な業務命令
「いつも思うけどさ、このビルで総選挙開催したとするじゃん? そしたら、橘さん絶対センターに決まりだよね」
「総選挙って……」
おいおい、アイドルじゃないんだからさぁ。
整った顔立ちとスラリと高い長身に、スーツには弁護士バッチ。
超絶イケメンの弁護士が入ってきたと、颯ちゃんはすぐにこのビルで働く女子たちの話題になった。
私が幼馴染みと嗅ぎつけた同僚から、颯ちゃんがフリーなのかと聞かれたこともある。
そういう話を颯ちゃんに直接聞こうと思ったこともなかったから詳しくは知らないけど、きっと彼女の一人くらいいるんじゃないかと想像している。
「わっ、ちょっと、来る来る!」
こっちに気が付いた颯ちゃんが片手を上げるのを見て、美香子がキャッキャと騒ぎ始める。
私たちの前まで来た颯ちゃんは、見慣れたいつも通りの笑顔を見せた。
「お疲れ」
私にそう声をかけると、隣にいる美香子にも「お疲れ様です」と丁寧に会釈する。
美香子が若干上ずった声で挨拶を返した。
「昼か?」
「ううん、今から外回りで渋谷まで出掛けるの。颯ちゃんは?」
「俺も外回りみたいなもんだな、裁判所にちょっと行ってきたんだ」