俺様副社長のとろ甘な業務命令
「これは……業務命令ってことですか」
「……。そういうことにしないと、Yesの返事はできないってことか」
返事に困る私を見て、副社長はフッと鼻で笑う。
完全に勝敗が決まっているような空気。
不敵な笑みに怯んでしまいそうになるけど、相手は仕事を共にする副社長。
頭を仕事モードにして、プライベートな自分に蓋をする。
「副社長の“指導係”として必要なら、仕方ないと思って受け取ります。でも、そうでないならお返しするつもりです」
はっきりとした口調で答えると、それを聞いた副社長は何がおかしいのか肩を揺らして笑いだした。
「そうか、わかった」
「……?」
「初対面でスーツ汚されて、歓迎会では酔い潰れて面倒みる羽目になって、それでも悪いと思ってないってわけか」
「そっ、それは、どっちも申し訳ないと思って」
「だったら、断れないよな?」
介抱してもらったことは仕方ないにしろ、このタイミングでスーツの件を蒸し返されるとは思いもしなかった。
有り得ないけど、この時のために謝罪を受け入れてもらえなかったのかと疑ってしまいたくなる。
でも、これ以上言い返せる言葉もない。
自分の落ち度をどこまでも恨みながら、ぐっと感情を抑え込んだ。
「……わかりました。これは、お預かりします」
もうほとんど諦めに似た気持ちになっていた。
いくら拒否の姿勢を見せても、この調子じゃ「はい」と言うまで帰してもらえそうにない。
ここはひとまず、素直に話を聞いて丸く収めた方が賢いかもしれない。そう思った。
後のことは落ち着いてから考えればいい。
私の返事を聞いた副社長は「そうか」と口角を上げる。
満足そうな意地悪な笑みから逃れるようにベッドから飛び出すと、左手の手首を引き止めるように掴んで振り向かされた。
「じゃあ……昨日のこと、一つだけ教えてやるよ」
意味深な微笑を浮かべる端正な顔に、こんな時なのに妙に意識して鼓動が速まっていくのを感じていた。
掴まれた手が、熱い。
その手を強引に引かれ、耳元に感じた吐息にぞくりと体が震えた。
「昨日のお前……かなり激しかったぞ」
「……っ?!」