俺様副社長のとろ甘な業務命令
待たせるな、なんて言われ、慌ただしく支度を進めた。
とりあえずメイクをして髪を軽く巻き、クローゼットを開ける。
コーディネートを考える時間がない時によく頼るセットアップの中から、グレーのニットスカートタイプのものを手に取った。
最小限の準備を終え、冷蔵庫の中に入っていた栄養ドリンクを手に部屋を出ていく。
最寄り駅に向かって歩いている最中、コートのポケットの中でスマホが震え始めギクリとする。
でも、取り出した画面には浮かんだ顔とは違う名前が表示されていた。
「もしもし、颯ちゃん? どうしたの?」
「おはよう、起きてたか」
「あ、うん。おはよう」
遅い、と副社長から急かす電話でもかかってきたのかと思った。
でも、相手は予想外にも颯ちゃん。
電話を受けながら、結構早い時間なのにどうしたのかと思う。
「どうしたの? こんな時間に。珍しいね、仕事は休み?」
「あぁ、今日はな。それより、今日誕生日だろ。おめでとう」
「あー、覚えてくれてたんだ、ありがとう」
「何言ってんの、何回佑月の誕生日祝ってると思ってんだよ」
「あはは、それもそうだね」
子どもの頃は、よく颯ちゃんにも誕生日を祝ってもらっていた。
小学生くらいの時は颯ちゃんのお母さんがわざわざケーキを買ってきてくれたりもしたし、高校生の頃には颯ちゃんがケーキの食べ放題に連れて行ってくれたこともあった。
思い返すと何だか懐かしい。