間接キスを許すのは。




コンビニの自動ドアへと足を向けると、開くと同時に「ありがとうございましたー」と間延びした声が聞こえる。

そしてそこに立つ人の姿に、目を見開いた。



「康一……」



呆然としつつ、彼の名前を呼ぶ。

ココアを手にしている康一の姿に心臓が1度跳ね、どうしてここに、と思わず問いかければ、「図書室に寄っていて」との答え。



普段本を読むことはあっても図書室に行くほどではないのに、なんでわざわざ行ったんだろう?



「……」

「……」

「……一緒に帰る?」



しばしの沈黙ののち、恐る恐る誘いの言葉を口にした康一。

本当なら断るはずだったのに、気がつけばこくりと頷いていた。

そしていつものように隣に並ぶ。



……ううん、いつもどおりなんかじゃない。

やけに緊張しているし、ふたりの間には少し距離がある。



会話もないまま、足だけを前に前にと出す。

まるで作業のようなそれを繰り返していると、



「くしゅっ」



くしゃみがひとつ。

思わず自分の鼻を押さえる。

うう……寒い、と肩を震わせた。



「大丈夫? そういえば、さっきコンビニでなにか買うつもりだったんじゃないの?」

「いいよ、平気」

「そっか……」



本当はココアを買うつもりだったけど、別にいい。

康一を付き合わせるのも、ひとりで戻るのも気まずいし。

だからといって、こんな困ったような表情をさせたいわけじゃなかったんだけどな。






< 13 / 15 >

この作品をシェア

pagetop