間接キスを許すのは。




「じゃあこれ、あげるよ」



そう言って、康一はあたしにココアを差し出す。

それはさっきコンビニで買っていたものだと思う。



「まだあったかいと思うし、飲んで」



ね? と差し出されてしまい、仕方がなく受け取る。

だけどプルタブに手をかける気にはなれず、ただありがとうとだけ返した。



顔を見ることもできず、軽くうつむいたままのあたしを見て、康一が小さく息をもらす。

気まずい態度に苦笑した彼と、面と向かって話をすることがこわい。

自分がどうするか、どうしたいか、なにも定まっていない状態で向きあうことは難しい。



「ココ、ごめん。もういいよ」

「え……?」



そっと顔をあげる。

マフラーに覆われた首、あごの先、寒さで赤らんだ頰。

そして丸い瞳まで視線をすべらせる。



「俺といたくないんだよね?
悪かった、もう近寄らないから」



眉をさげて、空気はびりびりと震える。



ああ、そうか。

今日、康一が珍しく図書室に行っていたのは、あたしと帰る時間が重なることがないように。

あたしに気をつかってくれていたんだ。

その事実に、ようやく気づく。



悔しい。

そんなことをさせてしまう自分が、今の今までどうしてだろう? としか思っていなかった自分が恥ずかしい。



悲しそうな、さみしそうな表情を見て、あたしは彼につめ寄った。



「違う!」



ぎゅう、とコートの端を握り締める。

ココアごとつかんでいることで、掌に押しつけられた缶があつい。






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