間接キスを許すのは。




あたしが拒否した回し飲み、なんてやつは、ようするに間接キスだ。

間接キスなんて、そんなの。



「そういうことは、好きな人同士ですることじゃん……」



みんなはあたしのことを軽度の潔癖症だと思っているのかもしれない。

今までずっと頑なに拒んで、目をつぶったことなんてないし、そう勘違いされてもおかしくない。



だけど違う。

そうじゃない。



唇が触れたところに、違う唇が触れること。

それは特別なことだ。

誰にだってかんたんに許せることじゃないと、思う。



みんな平気なんだとしても、少なくともあたしにとってはありえない。

絶対にできないことなんだ。



すい、と視線を空へ向ける。

その青さに、清廉さに目を細めた。



「俺は、お前だからいいと思ったんだけどな」



ぽつりとこぼれた康一の声。

え? と顔を彼に向ける。



優しく笑って、緊張している様子はまったく見られない。

まるで当然のことのように、寒いねとでも言うように、自然と空気を震わせる。



「好きだよ、心愛」



それはきっと、彼の手の中の飲みもののことじゃない。

目立ったところのない、つまらないあたしのことだとわかって。



いつもみたいに「心愛って呼ばないで!」と言うこともできず、彼の透き通った瞳に吸いこまれそうになった。






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