間接キスを許すのは。
寒いし、気分はあがらないし、憂鬱だ。
ぐるりとあたしを囲む鬱々とした空気を振り切ることができないまま階段を降りつつ、下駄箱へと向かっていると、
「今、帰り?」
階段の上から落とされる言葉……声。
その持ち主に思い当たり、あたしはばっと声の方を見上げた。
そこには予想どおり、終礼後声をかけられる前に逃げ出すことができたはずの、あたしを優しく見つめる康一がいた。
「一緒に帰ろう」
「あー……」
意味のない声をなんとかのどからしぼり出す。
こんなものが久しぶりの会話になることを苦く思いながら、言葉を必死に探す。
「職員室。行くから、ごめん」
断りの言葉を。
もちろん職員室に行く予定なんてない。
康一と一緒に帰ることを避けるためのうそだ。
罪悪感もあり、顔を見れず、あたしはゆっくりと顔をうつむかせた。
冷たい階段の模様をなにともなく見つめる。
「……そっか」
さみしそうなかすかなそれが降って、ぺたぺたと足音が落ちてくる。
また明日とだけ残して、彼はあたしより前に出て階段を降りて行った。
しばらくして、ふっと顔をあげる。
万が一追いついてしまうことがないように、まだ帰ることはできない。
だけど職員室に行くわけもないし、教室に戻る気にもなれず、なんとなく足を動かした。
1階に着いてうろついていると、中庭近くの自販機が目に入った。
それは、あたしと康一が今ほど親しくなったきっかけのものだ。