魅惑のプリズナー〜私は貴方に囚われた〜



空を見れば、窺える。


雲ひとつない、星も見えない真っ暗な闇にぽつんと佇むように動かない、丸い月。



なんて幻想的なんだろう。


ああ、そうだ。


そういえば、と思いだし事をした。



アサヒは私によく言っていた。


『満月の日は自分のことは考えないで。
いい?僕のことだけを考えていて』


それは昔から、慰めのように言われた台詞。


寝物語を聞かせるように、甘く穏やかな声で。


子供を寝かしつけるような、月のように静かな声で。



今思えばとても不思議だった。


記憶を失ってから彼は言わなくなった。


それは、言う必要のないあの場所にいたからだろうか。


それとも、私が彼だけを考えていられる状況下にあったからだろうか。


違う。一番の理由は決まっている。


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