魅惑のプリズナー〜私は貴方に囚われた〜
「アリサ、戻ろう?」
そのまま、冷たい水の中でそっと私を抱きしめる仄かな熱。
二人ともびしょ濡れなのに、それでも彼は私を怒らない。
「僕はアリサと一緒にいたいんだ」
“行かないで”
そう言うのがきっと当たり前の状況で、そんなことを言えるのは誰よりも、大切な私の弟アサヒだけだろう。
私よりも背の高い彼は、体積分だけ軽くなった水の中で私の体を軽々抱き上げる。
足の下に腕を差し入れられて、陸へと戻る途中、心地のいいアサヒの心音を聞きながら私は呟いた。
「ありがとう」と——。
どうしてだろうと、考えても分からない。
何故だか言いたくなったから、口をついて出てきたのだ。
アサヒは微笑むばかりで、何も返しはしなかった。
私も、返答など求めてはいなかった。